2011年09月14日

立ち食い 



今日、ちょうど定年退職をむかえた初老の男が

ひとり、駅前の立ち食いそば屋で一杯のそばを食べている。

エビの天ぷらが一尾のっかった一杯500円のそばだ。

男は30年も前からほぼ毎日昼休みこの店に通っているが、
一度も店員とは話したことがない。

当然、話す理由なども特にないのだが、今日
男は自然に自分と同年齢であろう店主に話しかけていた。


「おやじ、今日俺退職するんだ。」

「へぇ・・・。そうかい。」


会話はそれで途切れた。
ほかに特に話題があるわけでもない。

男の退職は、今日が店を訪れる最後の
日であることを表していた。

すると突然、男のどんぶりの上にエビの天ぷらが
もう一尾乗せられた。


「おやじ、いいのか。」

「なーに、気にすんなって」


男は泣きながらそばをたいらげた。
些細な人の暖かみにふれただけだが涙が止まらなくなった。


男は退職してからも、この店に通おうと心に決めた。

男は財布から500円玉を取り出して、

「おやじ、お勘定」


「800円」




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bunbun
posted by hairclub at 22:28| ヘアークラブ イオン